東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)143号 判決
1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
(一) 原告は、審決は、訂正後の本件考案と第一引用例記載の袋体とを対比するに当り、相違点(2)について周知技術を誤認した旨主張するので、まず、周知技術について検討すると、成立に争いのない甲第五号証によれば、実用新案出願公告昭四二―三三四六号実用新案公報に記載された考案は、「ポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどの熱可塑性合成樹脂シートを基材とする袋体において、袋のシール部分を感圧性接着剤により開閉自在となしたるきわめて使用簡便なるシール袋を提供せんとするもの」(同公報第一頁左欄本文第六行ないし第一〇行)であつて、「舌片部2を有する袋状体の各周辺部3を高周波加工あるいは溶接棒にて熱融着してなるポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどの熱可塑性合成樹脂製の袋体1において、該舌片部2の上端面と平行する位置に熱可塑性合成樹脂よりなるテープ片7に強固に接着した感圧性接着剤層6及び紙基材よりなる保護膜5を有するテープの背面部を、高周波加工あるいは溶接棒により、全面もしくは上下両端を熱融着又は接着せしめてなるシール袋」(同頁左欄本文第二〇行ないし右欄第七行)であり、また、成立に争いのない甲第六号証によれば、実用新案出願公告昭四八―九八六〇号実用新案公報に記載された考案は、「袋体Aの封緘片1を折曲折返し、折返片1′を設け、その両側端縁を溶着し、折返片1′に接離自在なる接着剤2を細幅aに塗布し、更にその細幅aより幅広い広幅bの離型片3を細幅aの接着剤2の塗布面に貼合せしめた合成樹脂袋」(同公報第一欄本文第六行ないし第一〇行)であり、更に、成立に争いのない甲第七号証の一によれば、実開昭四八―一七二一〇号公開実用新案公報に記載された考案は、「袋体1の開口部4の半側縁部に、該開口部4を開閉できるようにした開閉口片5を連設し、この開閉口片5の端周縁の内面に、両面粘着テープ7を貼着し、かつ、この両面粘着テープ7の外面に、剥離片8を貼着してなる包装袋」(同公報第一頁右欄第二行ないし第六行)であることが認められる。
右の事実によれば、審決が引用した周知技術は、いずれも、開口部の一片を延長して舌片部を形成し、該舌片部上に接着剤層を介して離型材を設けた構成からなる袋体であつて、この点に関しては、訂正後の本件考案の構成と相違があるとは認められない。
そして、審決は、訂正後の本件考案と第一引用例記載の袋体とを対比し、訂正後の本件考案が舌片部上に接着剤層を介して離型材を設けたのに対し、第一引用例記載の袋体がそのような構成を欠如する点を相違点(2)とした上、右相違点について判断をするに当り、一方が他方に比べてやや長い舌片状をなす合成樹脂製袋体において、右のような構成はきわめて普通に知られているとして前認定の周知技術を示しているのであるから、周知技術にそのような構成が示されている以上、訂正後の本件考案と周知技術とがそれぞれ解決課題において一致しないものがあるとしても、審決の認定に誤りがあるとはいえない。
(二) 原告は、相違点(2)について周知技術の封着手段を第一引用例記載の袋本体の舌片内側部に設けて訂正後の本件考案のようにすることはきわめて容易であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
成立に争いのない甲第八号証によれば、訂正後の本件考案に係る袋体は、訂正後の本件考案の要旨に記載された構成からなる袋体であつて、被収納物を袋本体の下部開口より収納し、吊下げ状態で展示し使用するものであることが認められる。
ところで、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例記載の発明は、「陳列棚のピン又はくぎに吊下げる型のプラスチツク袋の製造方法及び製造装置に関するものである。更に詳しくは、袋の上方を溶着して、商品封入用仕切部と他の仕切部とに区分し、該他の仕切部に、例えば厚紙片のような丈夫で堅い材料を挿入せしめた型の袋に関する。」(第一欄第一〇行ないし第一七行)ものであつて、第一引用例には、「このように加熱体132は、袋を個々に溶断するだけでなく、袋の前側と隣接する袋の後側とをシールする。」(第五欄第九行ないし第一一行)、「前述したように、ウエブは、その中心線で折り曲げられないので、一方が他方よりも長く伸びた延長部21となる。この延長部は、第7図及び第9図に最もよく表われているように、それぞれの袋の底部に舌片部として形成される。この舌片部は、袋に内容物を入れる際に、その開口を容易にする。この袋は、普通、区画部の下端で熱シールされ、シール後に延長部21は通常切断される。」(第六欄第二九行ないし第三六行)との記載があり、かつ、右発明によつて製造された袋体の拡大図として別紙図面(二)第7図が示されていることが認められ、これらの記載及び図面によれば、第一引用例記載の袋体は、袋本体の開口部の一方が延長して舌片状の形状を有するプラスチツクフイルム製のサイドシール吊下げ袋であり、下部開口より被収納物を収納して陳列棚のピン又はくぎに吊下げた状態で使用されるものと認められる。したがつて、訂正後の本件考案に係る袋体と第一引用例記載の袋体とは、吊下げ袋の開口部の形状が同一であり、かつ、被収納物を下部開口より収納して吊下げ状態で展示することに使用する点において共通するものである。
そして、第一引用例記載の袋体が下部開口型の吊下げ袋である以上、被収納物を収納した後においてはその落下を防止するために開口部に何らかのシール手段を施す必要があることは当然であり、第一引用例には、前述のとおりシール手段として熱シールが開示されているにすぎないが、前述の第一引用例記載の発明の目的、課題、構成などからして、第一引用例記載の袋体のシールを特に熱シールに限定して解しなければならない理由はない。一方、前掲甲第五号証、第六号証、第七号証の一、及び成立に争いのない乙第一号証ないし第四号証によれば、訂正後の本件考案の登録出願前、一般に、袋本体内に被収納物を収納した後においても、その出入れが自由にできるように開口部を開閉自在にするという技術的思想は、当業者に広く知られていたことが認められるから、第一引用例記載の袋体において、その開口部を熱シールにより閉鎖する代りに開閉自在にできるようにシールすることは当業者がきわめて容易に想到することができるというべきである。その場合、前掲甲第五号証、第六号証、第七号証の一によれば、審決が引用する周知技術における袋体は、上部開口型であり、その全体形状としては第一引用例記載の袋体とは相違する部分があるけれども、袋の開口部を開閉自在にするという右課題の解決手段として、袋の開口部の一方が延長した舌片状物上に接着剤層を設け、これにより開口部を開閉自在にシールするという技術的思想を開示しているから、第一引用例記載の袋体にこの技術を適用して開口部を開閉自在にすることは、当業者がきわめて容易に推考することができるところであり、袋体が上部開口型であるか、下部開口型であるかなどシール部分以外の袋体の構成の差異によつて、その適用に本質的な影響を生ぜしめるものとは認めることができない。
したがつて、審決が袋体の開口部を開閉自在にするという課題の解決について判断をするに当り、前記周知技術を引用し、この封着手段を第一引用例記載の袋体の舌片内側部に設けて訂正後の本件考案のようにすることは、当業者であれば必要に応じてきわめて容易に想到しうるとした点に誤りはない。
原告は、訂正後の本件考案は、第一引用例及び第二引用例記載のものならびに周知技術から予測できない顕著な作用効果を奏するものであると主張する。
しかしながら、原告の主張する<1>吊下げ式の底部開口型の袋体であるにかかわらず底部開口部を開閉自在とすることができ、吊下げ状態で商品の出入れが可能であるという効果は、開口部が上向きであるか下向きであるかに関係なく、袋の開口部を開閉自在にすることによつて必然的に奏せられる効果であつて、この効果は従来の上部開口型の袋体においても奏せられる効果であり、顕著なものとはいえない。<2>簡易な封緘手段で底部開口部を封緘でき、かつ、封緘作業が場所を問わず容易に行えるという効果も、封緘手段として接着剤層を適宜使用することにより、奏せられる効果であり、上部開口型の袋体において封緘手段として接着剤層を使用した審決引用の技術においても奏せられている効果にすぎない。<3>収納商品が、袋本体よりも小さい場合でも袋本体を折り曲げて商品とほぼ同幅に吊下げ展示が可能であり、<4>袋本体よりも大きく底部開口部より突出する場合でも、その突出度が舌片の長さより小さいときは吊下げ収納が可能であるという点は、展示状態の適切、美観などにおいて相応しくないものであり、商品の展示方法としては通常好ましい用法とはいえないから、これをもつて顕著な作用効果であるとすることは相当でなく、また、従来の上部開口型の袋体においても、吊下げ状態で展示するものではないが、右と同様な収納方法をとることは可能であるから、この点も従来の上部開口型の袋体に比して特段の差異とはいえない。更に、<5>接着剤層の幅や接着強度の可変により、商品の重量に応じて商品を吊下げることが可能であるという点は、訂正後の本件考案の効果というよりは、下部開口型の袋体の開口部を接着剤層により開閉自在にした場合に当業者が必然的に考慮すべく、その技術内容からみて当業者がきわめて容易に想到しうることである。
したがつて、訂正後の本件考案の奏する作用効果は、第一引用例記載の袋体に第二引用例記載の包装体及び審決引用の周知技術を適用することにより当然予測される範囲のものであつて、格別顕著なものとすることはできない。
(三) 以上のとおりであるから、訂正後の本件考案は第一引用例及び第二引用例記載のものならびに審決引用の周知技術に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとした審決の判断は正当であり、審決には原告の主張するような違法はない。
3 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕 訂正後の本件考案の要旨は左のとおりである。
プラスチツクフイルムよりなる袋体の上部内にプラスチツクよりなる挿入片を介在せしめ、袋本体形成の熱溶断シール時に前記挿入片を同時に袋本体に熱溶着し、かつ、この挿入片の隔離のための区画シールを袋本体の表側面と裏側面を熱溶着することにより設け、しかも、袋体の底部に設けた開口部の一片を延長して舌片部を形成し、該舌片部上に接着剤層を介して離型材が設けられてなることを特徴とする袋体。